『夜の木の下で』 湯本 香樹実 投影体験
今回読んだのは湯本香樹実の『夜の木の下で』でした。
https://www.shinchosha.co.jp/sp/book/131514/
〈内容〉
どこか自分と重ねてしまうような少年少女が登場する、そんな短編集。
「緑の洞窟」
アオキの木というのはどういった木なのかわかりませんでしたが、1本の木に見える木は実は並んで植えられている二本の木だということを主人公が隠していたのは何となく共感できると思いました。子供の頃は何となくくだらないことでも秘密にしたいことがあったかもしれません。
そんな不思議なアオキの木の下では確かに魔法がかかってもおかしくないと思ってしまいます。主人公が弟になったかもしれないと感じたのは実際どうだったのでしょうか。アオキの木の魔法にかけられたのかもしれません。
「焼却炉」
学校の掃除当番や汚物を集める人は面倒くさがられる仕事だったと思います。その役割をたまたまよく一緒にするカナちゃんと主人公ユリは似たようなところがあって仲がよかったのだと思います。
焼却炉でカナちゃんが「燃えろ燃
えろ」と言ったのは私にはよく分かりませんでした。受験のストレスでちょっとそういう気分になっていたのかと思いました。
また、焼却炉と葬式(火葬)が重なっていると思いました。
「リターン・マッチ」
いじめられっ子といじめっ子が仲良くなるのは話のパターンとして割と多いかと思いますが、色々と複雑な事情がある話でした。
いじめられっ子も母子家庭で大変そうでした。彼の母が訴えると言っていたのは彼を愛しているからそう言っていたのだとは思えませんでした。
ケンが彼の母を殺してしまったのはとてもビックリしました。
「私のサドル」
サドルが口を利くという非現実的な話でしたがサドルはとても優しく包み込んで支えてくれるような感じでした。
私は最後自転車が無くなってしまうのは撤去されてしまったからではないと思います。サドルが意志を持っているのでどこかにサドルの意思で行ってしまったのではないかと思います。
サドルは描写の感じからミキよりはサドルが歳をとっている様に思いましたが、サドルはミキのことが好きだったのではないかと思いました。
「マジック・フルート」
複雑な家庭事情で祖父と2人で暮らすことになった主人公。しかし、そこでは祖母(霊)やピアノを習っている先生の姉、網枝さんなどとの出会いがありました。
コレクターである祖父の趣味に文句を言っていたり、主人公に冷たい祖母でしたが、集めた切手を顔や体に貼り付けていたりと可愛いところもありました。
網枝さんの蛇の話は綺麗で印象的でした。
「夜の木の下で」
とても不思議な話でした。主人公と弟が語りの文章が交互に続いていてこの2人は心で会話しているのかと思いました。
また、共通の思い出である、捨て猫を拾ってもらい手が見つかるまで苦労したことが2人を繋げているのだと思いました。
当時拾った猫を教会に置いてきたがその猫は普段は人間のように見えるという不思議なものでした。
物語は俊が延命すると思われるところで終わりますがもしかしたらこの共通の思い出が延命に繋がったのかもしれません。また、猫が命を繋ぎとめてくれたのかもしれないと少し思いました。
湯本香樹実さんの作品は独特で不思議な感じがすると思いました。
ぜひ読んでみて下さい。